ここのところ、日本の大企業の情けないニュースに接することが多い。シャープは売却交渉の土壇場で外資に買い叩かれ、東芝の不適切会計は組織犯罪と呼んでいいレベルです
東芝の件では、いわゆるコーポレートガバナンスの体裁を整えても、経営の改善や、不祥事の防止には役立たないことがわかりました。社外取締役を置いたりしても、経営者の報酬アップにお墨付きを与えて、自社株買いを行わせたり自己資本利益率を上げさせたりすることが出来る程度で、いわば株主による経営者の買収を補助する程度の役回りにしかなりません。
加えて、三菱自動車工業の燃費データの不正が起こりました。三菱自動車は、過去に二度にわたるリコール隠し問題で危機に陥り、三菱商事、三菱重工業、三菱UFJフィナンシャル・グループの三菱御三家企業から資金の援助を受け、三菱商事から経営者を迎えて再建に取り組んだことがありました。
しかし、不都合を隠蔽する企業体質を改めることはできませんでした。日本を代表する企業グループである三菱グループですが、自動車ビジネスにも、企業の反社会性を正すことにも、失敗したと評価していいと思います。ビジネスと倫理の両面における敗北です。
さて、シャープのような業績不振に加え、東芝、三菱自動車のような問題が起こった場合、関係者はこれにどう対処すればいいのでしょうか。一番気になるのは、これらの劣化大企業に勤める社員の身の振り方です。
参考になるのは、北海道拓殖銀行、山一證券、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行などが破綻した1997年から1998年です。これらの破綻は、大まかにはバブル崩壊による不良債権問題という逆風の環境によって起こったものです。
一方、ここのところ話題の製造業に関しては、世界的な競争環境の変化と国内市場における淘汰の二つの環境要因が働いています。金融の問題は、バブルの生成と崩壊に伴う循環的な環境要因でしたが、製造業の方はビジネスの競争環境そのものに起因する構造的なものなので、製造業企業の不振の方が回復の希望を持ちにくい面があります。
この種の大企業倒産は、倒産企業に勤める社員にとって、人材市場に自分と似た人材が大量供給されることを意味するということです。シャープ、東芝、三菱自動車など大企業にお勤めの方へ申し上げたいのは、「転職できる人は、早く転職しなさい」ということに尽きます。
例えば、英会話スクールでは、2007年当時、最大手NOVA倒産からの求職者で動き遅れた人は、採用された2年後にジオスが破綻し、「ジオスからも大量の人材が市場に出るから、様子を見よう」と採用企業側の態度が変化して気の毒だったようです。同業他社から見ると、一般論としてジオスが第2位だったので、優人材がいるように見えたことは否めません。
当時のNOVAの人材にとって幸運だったのは、ジオスよりも先に破綻して求職活動を行うことができたことです。もちろん、業務によっても、個々の人によっても異なるのですが、一般的な人材に対する評判は「ジオスの人材の方がまともだろう」というものでした。NOVAとジオスの潰れる順番が逆だったら、旧NOVAの求職活動はもっと大変だったでしょう。
シャープ、東芝、三菱自動車は最悪の場合、企業が破綻する可能性があり、そうならなくても大規模なリストラ(人員整理)は不可避でしょう。事実、シャープは人員整理を発表し始めているし、東芝は有望な事業まで外部に売却したがっています。
もし、破綻まで行かずに、リストラの場合であっても、個々の社員は、もちろん自分が対象になることを心配しなければならないし、生き残るとしても、職場の雰囲気は大いに悪化します。人間は環境を変えたくない生き物ですから、「しばらく様子を見よう」と思う人が多いかも知れません。しかし、「様子を見る」ことの機会コストを考えるべきです。
一般に退職金などの制度は、自己都合で退職すると不利で、会社都合の場合に有利なので踏ん切りが付きにくい場合がありますが、再就職の不確実性のストレスや会社の状況悪化を心配するストレスを思うなら、満足できる転職先がある人は、転職市場の需給が悪化する前に転職を決めておく方が、トータルではいい場合が多いように思います。いずれの企業にあっても、かつて、山一證券の野澤正平社長が言ったように「社員は悪くない」場合が多いのだろうから、個々の社員の方々には幸せになって欲しい。
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