慢性化しつつある人手不足。それによって「事業に影響が出ている」との回答する会社が半数にのぼるという調査もあります。
この人材不足に対して会社はどう対抗したらいいのか??古典的ながら、基本的には求人広告や人材紹介を活用して採用活動を継続的に行うしかありません。コストと手間をかけて行うことになりますが「いい人材がいない、だから採用はできない」と、人手不足を解消できない嘆く会社も多数あります。
もちろん、採用活動すれば応募があり、十分に人材確保ができているケースもありますが、「もうかなり長く採用できていない。不毛な採用活動をしているのだろうか…」と、求める人材がまったく採用できない、空白ポジションのある会社が増えています。
どうして、求める人材が採用できないのか?世間的にみれば経験もスキルも豊富な人が転職活動をしても、なかなか転職先がみつからないという悩みを頻繁に耳にするのです。まさに人材のミスマッチが起きているのではないでしょうか。今回はミスマッチがどうして起きるのか、考えてみたいと思います。
日本は人材のミスマッチ率が高い国のようです。人材のミスマッチ率が低いほど、企業は必要なスキルを持った労働者を容易に見つけることができます。逆にこれが高いと「空いているポジションと、求職者を適合させるうえで深刻な問題に直面している」ということになります。
日本はミスマッチ率が高くて「最も人材が探しにくい国」とのこと。企業が求めているスキルと、実際に求職者が持っているスキルとが大きく乖離しているようなのです。一方、オーストラリアが最もミスマッチ率が低く、人材が探しやすいとのことです。
人材ミスマッチの拡大は、日本経済の成長の大きな足かせになる可能性があります。安倍政権は、労働規制の緩和やダイバーシティの促進など、労働力の拡大に向けた取り組みを始めていますが、成果につながるのか、不安になってきます。いったい、どうしたらいいのでしょうか。
日本銀行が公表した経済・物価情勢の展望によると、企業の求人数が求職者数を上回っており、職種など条件にこだわらなければ働ける状態とのこと。しかしミスマッチによる失業率の改善は思わしくないようです。
その原因として指摘されているのが産業構造の変化です。産業構造が変わり、衰退産業で人手が過剰でも、成長産業では企業が求める人材が足りず、ミスマッチ失業が生じやすい状態になっているのです。労働力の急減に直面する日本にとって、本来働ける人が働けない状態が続くミスマッチ失業率の高止まりは、あまりにも大きな人材のロスであると指摘されています。
こうした背景から最も注目すべきミスマッチの原因のひとつは「企業が求める人材レベル(経験・スキル)が高すぎる」ことではないでしょうか。
求める人材レベルがさほど高くないポジションであれば、マッチング率は高まります。ところが求める人材レベルが高まれば、マッチする人材がどうしても少なくなり、ミスマッチ率が高くなります。たとえば、グローバル化を目指す会社が ・海外赴任経験があり、海外勤務を希望している ・英語力がビジネスレベル ・外国人をマネジメントした経験がある などと、求める人材レベルを設定したとしましょう。転職サイトの登録者のうち、いったい当てはまる人が何人いるでしょうか?あるいは、これからの会社が求める人材としてよくあげられる「マルチスキル人材」。グローバル化による専門性だけでなく、コミュニケーション能力やマネジメントスキルなどを合わせ持つ人材のことです。
「マーケットプライスに合った処遇をしないから採用が実現できない」ということです。たとえば、日本の大企業では年功的な昇給ルールが厳然と残っています。そこで人材レベルが高くても年齢的に若い人だと、高い報酬で採用できないのです。
不動産会社では、海外企業の日本誘致のため、語学堪能で西海岸に人脈がある営業担当を採用するべく採用を試みましたが、誰一人応募してくれる人はいませんでした。日本ではそれなりの知名度がある会社なので人事部は自信があったようですが、通常の営業社員と同等の待遇で働きたいと思う人はいませんでした。おそらく、求める人材の報酬レベルと300
円近いズレがあったのではないでしょうか。
ちなみに、そのポジションは1年以上も空白状態です。人材のミスマッチ率の高さは、企業が求める求職者のレベルが高すぎることもありますが、それよりもハイレベルの仕事でも十分な待遇を保障しようとしないため、ハイスキルの人材が働きたがらないことも大きな要因なのでしょう(さらに取材してみると、日本企業は人材レベルが高くても評価せず、協調性など別の要素が重視されるのが人が集まらない原因だという意見がたくさん出てきました)。
こうした企業における採用スタンスの問題に加えて、大学教育の体制にも問題があると指摘する声もあります。何らかの専門はあるものの、卒業時に業務に活かせるような専門性までは身につかない学部が多い、というのは感覚としてわかる方も多いのではないでしょうか。
教育の柔軟性(教育制度が労働市場の需要に対応できているかどうかを示す指標)が6.2と高いドイツでは、人材ミスマッチ率が3.3と低いそうです。そのことを考え合わせても、日本の教育が労働者のスキル確立につながっていないために、ミスマッチ率が高くなっている可能性があります。
ちなみに世界的に教育水準が高いとされている日本の「教育の柔軟性」が2.8と非常に低いということです。これは、日本の教育レベルが高い水準にありながら、企業側の視点において労働市場の需要を満たすような人材が生み出されていないということを示しています。中長期的にミスマッチを解消するには、大学教育の体制を改革する必要があるのは間違いありません。
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