先週、ロンドンで世界の汚職や腐敗の根絶を話し合う国際会議、反腐敗サミットが閉幕しました。そのなかで、パナマ文書事件を受けてタックスヘイブンの透明性を確保し、税逃れに対しての規制強化が問題とされました。
イギリスのキャメロン首相をはじめヨーロッパ各国首脳やアメリカのケリー国務長官も参加しましたが、結局「対策を進めたい」という言葉にとどまりました。つまり、はじめからタックスヘイブン対策を進める気がないのです。
ケイマン諸島やバージン諸島などタックスヘイブンよりも脱税が多いとされている、アメリカ・デラウェア州のウィルミントン市は人口7万人で、有名なノースオレンジ通り1209の番地に2階建ての貧相な建物があります。この2階建ての建物に本社を置く企業は32万社あると言われているのです。
ウォールマート、スターバックス、アップルなどの本社登記地がこの建物にあるのを知らないアメリカ人はたくさんいます。当然、今をときめくトランプ大統領候補の会社もここにあります。アメリカの上場企業の設立当初の本社の95%は、このウィルミントンにあるのです。デラウェア州全体の人口もたった94万人、この州に本店所在地のある企業はなんと118万社です。
ここで仮に、会社を設立したいと思ったら、この2階建ての建物にまず伺います。この建物はCTコーポレーションという会社が所有し、建物にそのオフィスがああります。そのオフィスでは次のような会話が常に行われます。
「ここに会社を設立したいのですが」
「わかりました。あなたのプライバシーに関する情報は要りません。そして、会社役員の名前や株主の名前も必要ありません。さらに、あなたの名前や住所も教える必要がありません。デラウェア州在住の人の名前を使えばすべて完成です。」
「値段はいくらですか」
「すべての手続きで約300ドル(3万円)です。急がれるのでしたら1000ドル(10万円)を支払えば、1時間以内で設立登記が完了します。」
このデラウェア州では、2015年に設立登記された会社は18万社、1月あたり500社です。この州は設立登記の税や手数料で年間1100億円を稼いでいます。人口94万人しかいないのでデラウェア州民はとても豊かです。
さらに、
「100ドル追加で、本日設立した会社を30年前に設立したように見せかけることができますよ。それは、安定利益をあたかも出して信用を得る効果的な方法ですよ。」
デラウェア州は、州の法律で守秘性があります。外国人が設立したとしても、社長のパスポートやあるいはソーシャル・セキュリティ・ナンバーを見せられたとしても、その会社の実質所有者はわかりません。これらの会社の役員連中は1人あたり何百社にも名義貸しを行っていて、仮にIRS(アメリカの国税庁)から代表者に連絡があると、素早く弁護士に転送し、その弁護士は州の守秘義務を盾に情報は明かせないようにします。
アメリカにはこのような地域があるので、わざわざパナマやケイマンに資産は置きません。それどころか、世界中から資金が集まるようにできています。租税回避のための世界会議を何度行っても、アメリカは「税逃れは許さない」と主張するのみで、自らの国の情報開示はいつまでたってもしません。日本人はアメリカを知っているようで知らないのです。
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