最初のコラム(「大企業や公務員を辞めて起業することを考えている方へ」)に続けて、2回目のコラム(「大企業や公務員を辞めて起業するかどうかは最初にもらった給料を貯金した時に始まる」)もたくさんの方々が読んでくださっていることがわかりました。
皆様、本当にありがとうございます。
大企業や公務員を辞めて起業することには高い関心が寄せられているわけですが、中には切実な悩みとしてお読みになられている方も大勢いると思います。そこで今回も起業の準備について書きたいと思います。
起業をするとなれば当然、ビジネスモデルや資本金の話をする自称経営コンサルタントがいますが、大学でも経営学の学者たちはまずそう教えているようです。彼らは、まず勤めている会社のビジネスモデルについて考えてみるように仕向ける傾向があります。
そもそも創業経営者でない限り、意外に意識しないのがこのビジネスモデルの仕組みなのですが、従業員でも勤めている会社のビジネスモデルを知らないと困ることがあります。それは経営状況が悪くなりかけ、皆で一生懸命に次の一手を探す時です。
通常、まずはこのように自社の状況を客観的に把握し、弱点に梃子入れするということになります。しかし、実際に起業する時にはビジネスモデルなど必要ないわけです。なぜなら、ビジネスなどよくわからないけれど、とにかく突っ込むことが起業だからです。
つまり、売り物も売り方もよく知らずにビジネスを始めることが起業の実態になっているわけです。したがって、ビジネスモデルを自社の状況を客観的に把握することは二の次だということになります。
まずはやってみることを心掛けるべきです。
それよりも実際に、大企業や公務員から起業するにあたって、あらかじめどうしても行っておくべきことがあります。それは皆さんの心の中にある「社会にはびこる悪習慣や不正に対して、個人的な恨みではなく、強い正義感から覚える怒りの感情」の確認です。
今の時代、大企業や公務員として勤めていた人がリアルな社会に飛び出して起業すると、周囲からは必ず不思議がられることになります。私はアメリカからわざわざ日本に帰ってきた理由とアメリカで軍属経験者という肩書から、その度にこのことについてうんざりするほど質問された経験がありました。
ところが起業するとなると、これが肝心なことになります。なぜなら、最初に就職する際、なぜ民間企業ではなく公務員の道を選んだのかといえば、一部の人間を除いてはお金のためでもなく、地位のためでもないからです。
公務員の道を選ぶというのは、どうひっくり返っても社会の一部に過ぎない民間の世界には絶対に存在しない「国益」や「公益」という存在に憧れたからではないでしょうか?
私が米軍に計7年間も所属して学んだことはアメリカ国民のための「国益」や「公益」についてでした。具体的に言えば、国民の生命と財産を守ることなのですが、これこそ公務員の役割であって使命だということです。
しかし、公務員生活を送っていると必ずある段階で現実とこの使命との間に横たわる大きなギャップに気づくことになるわけです。例えば、上官が私のどうでもいい態度にこだわりすぎるようになったり、国や地域全体の利益とは相反した要求をするようになった時です。
そこで感じるやり場のない怒りが「社会にはびこる悪習慣や不正に対して、個人的な恨みではなく、強い正義感から覚える怒りの感情」です。この感情は大企業の現場でもあることですが、これをまず確認し、そこで何も感じていないのであればその段階で起業は諦めるべきです。
逆にその感情が溢れて仕方がないという方は、その感情が続く限りは起業は成功し、やがて国内外の公的なリーダーシップを任せられるようになるかもしれません。その理由は、民間企業の世界では、自分自身の心そのものと一体化するほどの使命を創り上げることが不可能だからです。
特に、中小企業の企業経営者たちはあの手この手で、自らが感じた使命を従業員たちに刷り込もうとしますが、ほとんどの場合、失敗します。当事者意識を伝達することが出来ないからです。なぜなら、民間経済での使命は所詮、カネ勘定だからです。
しかし、大企業の社員や公務員である皆さんは公益と現実の挟間で悩み続け、ついにはそこで起きる感情に耐え切れなくなり、自分自身で行うために組織を飛び出すことになり、そのような形で起業するからです。
そして多かれ少なかれ、そのことに理解され、分かち合ってくれる人たちが一緒に企業組織を創り上げていってくれます。だから、その感情があなたの胸の中に本当にあるかどうかこそ、何を差し置いてもまずはチェックすべきだと私は思うわけです。
さらにもう一つ、今日この瞬間から皆さんがすぐに出来ることがあります。それは出会いがあったらその場で報いてしまうことです。つまり、本当の感謝を知ることとその気持ちを大切にすることです。
その場でその方に心から感謝しながら、その方から頂いた厚情に手土産などで報いてしまうことです。そうすると不思議とまた出会うことができるようになります。コミュニケーションが成立し、温かい人間関係が成立し、当然、ビジネスチャンスは一気に増すことになるわけです。
人類学者たちが導き出した結論とは、経済とは最初に贈与から始まったという事実です。人はたくさんのものをもらうと、ある一定の限界を超えた瞬間にどうしてもお返しがしたくなるという性質を本能的に持っていて、それを返報性の原理と呼んでいます。
実際に、ビジネスとはこの延長線上にあるものなので、頂いた厚情に対して報いることがなければ、ビジネスは永遠に始まることなどありません。ところが、公務員というのはこれとは正反対のマインドセットを最初から刷り込まれています。
私には米軍に所属していた同僚がいますが、今でも彼らが日本に遊びに来た時は誘って街に繰り出し、毎回、私が御馳走することにしています。そのほとんどが現役の軍人ということもありますが、その後、彼らから御礼の電話やメールすら来ることはありません。
これは公務員の友人の場合と全く同じなのですが、異口同音に「忙しくてメールなど書けないし、電話する暇がない」というわけです。彼らが公務員をそのまま続けるのならそれでいいですが、公務員を辞めて起業するのであれば、これではやっていけないでしょう。
なぜなら、御礼の一言すら言えないならば、ビジネスの基本である返報性の原理を意のままに使うことができないからです。その結果、お客様の見込みとなるべき方にすることができないため、起業はものの見事に失敗することになります。
公務員にとってのお客様とは、すぐそこにあらかじめ存在しているもの、つまり日本に住んでいる国民のことです。自分で掘り起こしていかなければいけないリアルな世界とは全く違います。そもそもお客様など存在していません。お客様は創り上げるものであり、顧客創造こそ、ビジネスの基本です。
そのためには世間様に心から感謝し、そのことを言葉として伝え、あるいは商品やサービスに託してお届けするわけです。私たちには簡単なことですが、しかし公務員マインドでは絶対にできないことでもあると思います。
「社会にはびこる悪習慣や不正に対して、個人的な恨みではなく、強い正義感から覚える怒りの感情」と「世間様への感謝」、今日から実践してみてください。その瞬間から、皆さんは大企業や公務員を辞め、リアルな世界へと大きく一歩踏み出すことになるわけです。
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