アメリカ共和党の大統領選指名演説でトランプはこう言いました。
“America is One of the highest taxed nation of the world.”
しかし、これは全く間違っているとも言っています。アメリカの経済紙フォーブスによると、GDPに対する税収の割合ではアメリカは世界中のトップには遠く及ばないという記事を掲載しています。OECD諸国の税収のGDP比の平均が34%であるのに対して、アメリカは26%、フランスは43%、ドイツが36%、イギリスは36%、日本は28%なのです。
法人税率だけを見ると、アメリカは39.6%で、アフリカのチャドやUAEアラブ首長国連邦に次いで世界第3位の高税率なのです。ちなみに、日本もようやく実効税率30%を切りました。しかし、連邦税収全体の法人税収入は11%しかないのです。
日本政府は税について税率だけで世界と比較しますが、実際は税負担率で比較すべきです。アメリカの大企業は世界の税率の低い国(タックスヘイブン)に本社を構えて、実質的な税負担を抑えています。中小の法人は、パススルー課税の組織体であるパートナーシップ、LLC、S Corp.などにより、法人の利益を個人の所得に移転させることによって法人税を逃れているのです。
それでは、個人の所得はどうなっているのでしょうか。Tax Policy Centerによるとアメリカ納税者の80%以上は、税率が15%以下であるとしています。アメリカの所得税率は10、15、25、28、33.35%、39.6%の7段階の累進課税となっています。
独身者であれば4万1000ドル(約400万円)、既婚者であれば46万7000ドルの所得を超えれば39.6%の最高所得税率となります。アメリカ全世帯の3%が28%以上の税率のカテゴリーに入り、2.5%が26%~28%の税率のカテゴリー、全世帯の15%が25%のカテゴリーに入ります。
そうすると、アメリカでは5人のうち4人が所得税率10%~15%のカテゴリーに入るか、全く税金を払っていないという計算になるのです。さらに、3人のうち1人は収入が少なすぎて課税がゼロで申告すら必要でない人たちです。
2016年では、独身者で1万350ドル(約100万円)未満、既婚者だとその倍の収入であれば納税額がゼロとなり、残りの45%の税率は10%~15%のカテゴリーになります。アメリカ人はそんなに貧困層が多いのでしょうか。
アメリカに行ってみると、高級車や何億円もの住宅街が点在しており、多く並んでいます。日本と税率だけで比較すると、中産階級の所得税率はアメリカの方が高いのはなぜでしょうか。それは、収入から控除されるものが日本と比べ物にならないくらい多いからです。特にアメリカでは雑控除(miscellaneous itemized deductions)が多いのです。
ビル・ゲイツやウォーレン・バフェット、そしてジョージ・ソロスなどの超富裕層も税率は15%程度になっています。例えばキャピタルゲイン課税は長期譲渡(1年超保有)の場合、税率のカテゴリーが10%~15%の人であれば税金はゼロで、39.6%適用者であれば20%、その中間の人は15%となります。
前共和党大統領候補のミット・ロムニーは、勤労所得を少なくし、いかに配当所得などの不労所得を増やすのが節約につながると語っていました。日本ではこの種の節税対策は全くありません。したがって、アメリカ人と同じ収入では税負担が3倍も違うことになります。
トランプの支持者層の大半は低所得の白人だと言われています。この統計からすると、5人に4人は低所得者だということになります。アメリカの大手メディアでは、トランプの黒人の支持者はほとんどゼロと言われていますが、この統計の問題は人種がわからないこともあって混沌としているようです。
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