日本はもちろん、アメリカの相続税問題についても日本の報道機関は一切報じていません。さて、アメリカ財務省とIRS(アメリカ国税庁)は、アメリカ富裕層が通常、節税手段に利用する大幅な改正案を議会に提案したようです。
日本では遺産総額4,800万円程度から相続税がかかりますが、アメリカでは545万ドル(5億5,000万円)、夫婦合算で1,090万ドル(11億円)以下の遺産なら全く相続税がかかりません。ただし、その枠を超えると超えた額に対して一律40%の相続税がかかります。今回の改正案は、その40%がかかる者がターゲットになるようです。
アメリカの企業価値算定の意味をを説明すると、会社オーナーが自社の持株の評価額を下げるために用いられる手法で、まずファミリービジネス組織を設立し、その組織のオーナー株主が死ぬ直前に、株式持分が過半数を僅かに下回る程度に家族へ贈与します。
日本では考えられないことですが、これによりオーナー株主は少数株主に転落し、その組織のコントロールを失うことで、株式評価額が大幅に下落し、相続税の対象外となります。この方式は、アメリカではむしろ一般的で、相続税の申告後3年以内に税務調査が来なければ、もし来たとしてもクリアすれば、相続税の税務調査も時効となったところで、その組織を解体しその被相続人が所有していた株式を相続人で分け、再びオーナー経営者が出現することもあります。
そんなわけでIRS(アメリカ国税庁)は、死ぬ直前に大掛かりな節税ができるような税法を改正し、少なくとも死ぬ3年以上前にこのような対策をしないと節税を認めないとする改正案を上程しようとしています。この節税策は、株式はもちろん、上場株式、現金や預金にまで応用できるため、乱用が横行しているので規制に乗り出す気なのでしょう。
しかし、それよりも大きな改正案が出ているようです。株式持分の流動性に制限が発生した場合、例えば日本では譲渡制限付株式や、売却できない株式になった場合、企業価値算定が可能でしたが、被相続人の死後、遺族等がこの制限を撤回する権利を有するのであれば、株式の評価減は制限されるというものです。
このような改正案に対して、アメリカでは税理士はないため税務専門弁護士は、まっとうな同族会社にとってこれらの改正はビジネスによい影響を与えないと反対の姿勢をアピールしています。しかし、日本の同族会社や医療法人はもっとひどいのはご存知でしょう。
アメリカ財務省は広く意見を聞き、12月1日に公聴会を開く予定です。日本の税制改正の場合は、富裕層や資産家の声を聞くわけではなく、政府税制調査会も自民党税制調査会も、税収確保と低所得者救済、働く女性に有利な税制などとの一般受けの税制を優先させるのが目的なので、富裕層に対する課税が年々重くなっています。
日本では金持ちは悪いから搾り取るという税制でできていますが、資産家に減税すると、金持ち優遇税制だとしてマスコミも叩きようになります。これでは世界の富裕層は誰一人として日本に住もうとはしないでしょう。アメリカの富裕層に対するこの改正案も、世論調査では否決されるとしているようです。アメリカは金持ち優遇税制なのでアメリカに世界の富裕者が集まる一因であるかもしれません。
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