今回は、先進国の5大中央銀行であるアメリカFRB、欧州中央銀行、イングランド銀行、スイス国立銀行、そして日本銀行が2007~2015年の8年間にどれだけ総資産を増やしたか、そしてどれだけレバレッジを高めたかを話したいと思います。
そもそもレバレッジとは何でしょう。それは、物理学で言うテコの原理を効かせることです。資産の運用をするとき、自分のお金だけで投資をするのはレバレッジをかけない運用手法です。勝っても負けても、資産価値の増加分、減少分だけが自分の儲けになり、損失になります。
しかし、資産運用に自信のある人ほど「それではつまらないから、同じ資産価値の上昇からもっと大きな利益を得る方法がないものか」と考えます。そこで、手持ちのお金に借金を足して、その総額で資産運用をします。自己資金に対する借金のレバレッジをかけるというわけです。
運用している資産の価格上昇率が、借金の金利を上回っている限り、レバレッジをかけたときの運用益は資産価格の上昇分より大きくなります。反対に、運用資産の価格が下落した場合には、レバレッジさえかけていなければ、価格の下落分だけ運用資金が目減りする程度で済みます。しかし、もしレバレッジをかけていれば、たとえ運用資産価格は上昇していても、借金の金利より上昇率が低ければ損失が出るし、下落幅が大きければ手持ちのお金を完全に失った上に借金が残ってしまうこともあります。
日銀はまさに破滅願望を持っているとしか思えないほど極端に大きなレバレッジをかけて巨額資産の運用をしています。2007年には約40倍のレバレッジをかけて、GDPの20%強に当たる資産を運用していただけだったのに、2015年では約120倍のレバレッジをかけて、GDP総額の約80%という莫大な金額の資産運用をしているのです。
大人しそうな顔をしているイギリスのイングランド銀行もレバレッジの大きさだけで見れば、日銀とほぼ互角の危ない運用をしています。しかし、イングランド銀行の場合、そもそも自己資金(純資産)の額がGDPの0.1~0.2%という少額なので、120倍を超えるレバレッジをかけても、運用資産総額はGDPの20%弱にとどまっているのです。これなら、かなり派手に大穴を開けても、国民が尻拭いに支払わされる金はべら棒な金額にならずに済むでしょう。
一方、スイスの中央銀行であるスイス国立銀行は昔から大相場を張ることで有名でしたが、何度も修羅場をくぐり抜けてきただけに、締めるところはきちんと締めているようです。運用総額こそ、日銀を上回るGDP総額を超える莫大な金額に達しています。しかし、レバレッジは10倍以下に保っています。つまり、スイス国立銀はGDPの11~13%に当たる巨額の純資産を溜めこんだ上で相場を張っているのです。
世界中を見渡しても、日銀ほどデタラメな資産運用をしている中央銀行はありません。自己資金の120倍にもなるカネでGDP総額の80%に達する資産を運用し、その資産が0.8%下落するだけで自己資金が消し飛んでしまい、そこから先はGDPの何%という単位で数えられるような尻拭いを日本国民にさせるという無謀きわまることをしています。
ここで「ドルや円のように不換紙幣をいくらでも発行できる中央銀行は、カネを無尽蔵に刷ることができるから、そもそも借金など1銭も使わずに自己資金だけで資産運用をしているのではないのか」と感じた方もいるかもしれませんが、それはとんでもない間違いです。
世界中の中央銀行が発行している紙幣とは、どういう性質の資金でしょうか。紙幣とは「返済期限なしで、金利も付けませんが、持ってきた人には額面と同じ価値の紙幣を必ずお返しします」という借用証なのです。「同じ価値に相当する重さの金を差し上げます」というのとは、借用証としての信頼度は違いますが、それでも借用証であることには変わりはありません。
普通の銀行では「レバレッジが10倍台までなら保守的、20倍台ならふつう、30倍を超えると危険信号」という一応の目安があります。それ比べると、大バクチでボロ儲けも大損もしてきたスイス国立銀行は超保守的、欧州中銀はドラギ総裁の大言壮語にもかかわらず、やっと危険水域に足を踏み入れた程度ですが、日銀・FRB・イングランド銀行はとんでもなく向う見ずな運営をしていることになります。アメリカFRBとイングランド銀行はそもそも自己資本の金額が少ないので、国民に大損害をかけるほどの大相場は張っていません。
それにしても、日銀を始めとする世界中の中央銀行がこれだけ派手に相場を張っている以上、いつかは自己資金を超える損失を出すことになるでしょう。そうなった時、いったいどんな金融資産が自分の身を守ってくれるのかを真剣に考えなければならない時期を迎えています。まず、株や国債などの金融資産は避けるべきです。なぜなら、どこかで開けた穴を埋めるための換金売りが連鎖反応で値下げ競争を惹き起こしてしまうからです。
一般大衆の良識がグローバル・エリートのペテンを抑えて、デフレになってくれればいいですが、ついに根負けしてハイパーインフレになったときには現在のベネズエラのような見るも無残な結末が待っています。そういう難問に直面した時、デフレでもハイパーインフレでもびくともしない価値を持つ資産があります。
それは間違いなく、現物の金地金ですが、世界の年間金産出量は、欧州中銀と日銀が今年年初来9月半ばまでに拡大した資産額の8%にも満たないほどの少額です。だから、一升枡に一斗樽分の酒を注ぐようなもので、危機が勃発した瞬間あっというまに暴騰して、庶民にはまったく手の届かないところに行ってしまいます。
しかし、金の年間産出量は地球上に存在する金ストック総量の1.5~1.8%程度という低さで、背後には膨大な退蔵分が控えています。この退蔵分は、然るべき価格で換金できれば出てくるし、売りが売りを呼んで大暴落というような局面では出てこなくなるのです。
なぜ、金の価値保全能力がこれほど高いのかについて理論的な考察はされているようです。どれが特に優れているという決め手になる理論はありません。しかし、実際に金融市場が困難なときほど金の価値保全能力が高いことは間違いのないことです。
今後、ますます世界経済の脱工業化は進み、エネルギー需要も慢性的な低迷が続く見込みです。そうなると、金融市場の環境が改善するまで、どんな資産を持って待っていればいいのかという疑問に対する答えは明らかです。あらゆる金属・鉱山資源の中で、もっとも工業原材料需要への依存度が低い金を持って待っているのが一番です。
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