日経平均は2007年半ばまで上げていましたが、その後2007~2009年の国際金融危機(リーマンショック)、そして2009年前半まで下げ、あとは2010年、2013年、2015年と徐々に上げてから、今から1年前の2015年8月にはついに1989年大納会でのバブル崩壊以来最大の戻り高値、2万800円台を記録しました。
チャートを眺めていると、2013年までの回復と2015年の急伸には大きな違いがあることがわかります。2014年までは外国人投資家が売れば下がり、買えば上がり、外国人投資家が売り買いほぼ同額のときには横ばいとなっていたのです。ところが、2015年では外国人投資家は少しだけ売りが買いを上回っていましたが、それでもすでにご紹介したとおりのバブル崩壊以来の戻り高値を付けていました。
2015年の月次の売買動向をみると、外国人投資家は5月までは買い優勢、6月以降は売り優勢で、通算すると、2008年の国際金融危機の中での売りのクライマックス以来、じつに7年ぶりの売りに転じていたのです。それにしても、日経平均がまだ1万~1万6000円の範囲で推移していた2013年を通じて15兆円の買い越し、2014年はほんのわずかに買いが売りを上回りましたが、2015年6月以降はほぼ一貫して売りつづけているのは、みごとなほどの相場観といえます。
しかし、本当に相場観がいいだけのことなのでしょうか。第2次安倍内閣が発足して以降、円安・インフレの定着による景気回復を唱えつづけた現政権の思惑どおりに日本株を買っておけば、きっと日本の機関投資家は付いてくるから安心して利益を得ながら売り抜けることができるとわかっていたからこそ、2015年春までは買いつづけ、その後ほぼ一貫して売っているのではないでしょうか。
今年1~9月の外国人投資家の売りは6兆1900億円に達しましたが、これはブラックマンデーにより年間の外国人投資家の売りが7兆1900億円に達した1987年を上回るペースになっています。2万円台乗せを確認すると同時に売りに転じた手際の良さから見ても、外国人投資家は初めからアベノミクスの成功などまったく信じておらず、自分たちが先頭に立って買えば、日本の機関投資家は絶対に付いてきて高値で買い取ってくれると確信していたからこその行動ではないでしょうか。
しかも、今回は日銀と公的年金が「どんどん日本株を買いあさる」と公言し、そのとおりに買っているのだから、高値で売り抜けるのはまさに赤子の手をひねるように簡単なはずです。2015年以降、日本株を買い支えていたのは個人投資家でじゃなく、法人だけだったことからも、この間の外人投資家の売り抜けがいかに楽をして大儲けのできるうまい話だったかがわかります。
今年年初来、政府・日銀があれこれ手を尽くして日経平均を1万6000~1万7000円台で買い支えてきたのは、外国人投資家たちに安定した利益を出しながら売り抜けることができるようにと全面協力してきたとしか思えないのです。
しかし、今年の9月にはとうとうこの構図にも変化が出てきました。政府・日銀の買いをふくめても法人全体としての日本株の売買動向がわずかながらマイナスに転じ、ついに法人(36億円の売り)・個人(637億円の売り)・外国人(1兆1224億円の売り)が揃って売りに出ているのです。ここに至って、どうせ国民が尻拭いしなければならない日銀や公的年金資金でまったく利益成長のメドの立たない日本株を買いあさっているのは、破滅願望の表れとしか思えません。
事態は、安倍首相が日銀黒田総裁のクビを切って財界に謝罪の意を表してなんとか首相の座にしがみつくか、まったく業績回復の展望を失った金融業界の怒りが収まらずに安倍内閣そのものが財界から引導を渡されるかというところまで煮詰まっているように見えます。
なぜ、日本政府・日本銀行の意志で決まるはずの現金の流通残高が、21世紀初頭から現在までで5倍までは伸びなかったのに、市場参加者たちのばらばらな売りや買いの交錯の中で自然に価格が決まる金(ゴールド)の価値のほうが、総債務の伸びにふさわしい上昇となったのでしょう。
多少なりとも責任感が残っている日本政府・日本銀行にとって、際限のない紙幣増発はハイパーインフレの危険が怖くてできないのです。これに対して、金は誰の意志にもよらずに市場の中で価格が形成されるからこそ、こういう離れ業をやってのけるのでしょう。こう考えると、金本位制復活の機は熟したと思わずにいられないのです。
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