ニューヨークタイムズがアメリカ大統領候補のドナルド・トランプの1995年の確定申告書を入手したと発表しました。トランプは、IRS(国税庁)が税務調査中であるので、自身の確定申告書を公表することができないとしてきました。ニューヨークタイムズによると、NY市の郵便局の消印がある封筒が届けられ、開封してみるとそれぞれ1ページが中に入っていたそうです。
このTax Return(確定申告書)で明らかになったことは、トランプはこの年9億1,600万ドル(約1,000億円)の損失を出していて、トランプ本人の給与は6,108ドル(700万円)しかなく、利息収入は740万ドル(8,000万円)あるということです。
特に目を引くのは、アメリカでは9億1,600万ドルの損失は当時15年、現在では20年間繰り越され(日本では3年)、その後の所得と相殺されます。このアメリカ税法では毎年5,000万ドル(50億円)の所得があっても18年間税金を払わずに済むということです。トランプは実際、何年も税金を払っていません。彼の弁護士によれば、トランプは過去に国税や州税は払っていると言っているものの、国の所得税と州の所得税を払っているとは言っていません。
考えてみると、トランプの9億1,600万ドルの損失は何で生じたのでしょう。トランプ本人はニュージャージー州アトランティック・シティーのカジノホテル経営、トランプ航空の経営、そしてプラザホテルの購入が失敗し損失を被ったと言っていますが、実はクリントンとの討論会で明らかになった不動産デベロッパー特有の減価償却損(アメリカでは加速度償却が認められる)であることがわかりました。トランプ自身、テレビ討論でI have a lot of write-off. A lot of it is depreciation, which is a wonderful charge. I love depreciationと言っていました。
さらに、1995年の確定申告書を作成した会計士にインタビューしたところ、トランプと自分が申告書を作成したと認め、トランプの損失が915,729,293ドルであるのに対し、当時の会計ソフトは7桁まで入力できなかったので手書きで申告したとまで言っています。
その会計士は80歳を超え、現在はフロリダ州でリタイヤ生活を送っていますが、トランプの父フレッド・トランプの時から顧問会計士を務めていました。トランプが18歳の時から税務コンサルをしてきたので、トランプの節税対策はその会計士がやってきたということです。
その会計士はインタビューで、トランプは父親が詳細にまでこだわる性格であったのと対照的に軽率で自制心のない性格であると述べています。例えば、最初の妻イバンカと確定申告書(アメリカでは夫婦で一つの申告書)に署名をする際、トランプは何も見ずに署名をするのに対して、イバンカはいろいろ質問していたそうです。
トランプは1987年、著書The Art Of The Dealの中でその会計士をMy Accountと呼び、彼の不動産プロジェクトに対し、新しい税法が彼の不動産に関する税額控除にどう影響するのかの質問があったのを最後に、トランプとうまくいかなくなったようなのです。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、「トランプは税法をよく知っている、自分は天才だ、自分が大統領になれば税法をもっとよい方向に変えることができる」と言っていますが、この前の討論会でヒラリーが「どこの天才が、これだけの損失を出せるのか、トランプに税法を任せるのは、オオカミにニワトリの番をさせるのと同じだ」と言っていました。
トランプは反論し、ヒラリーの同胞であるジョージ・ソロスやウォーレン・バフェットも何百万ドルの税額控除をしていると言いました。しかし、その後ウォーレン・バフェットは2015年の申告書を開示し、「所得は1,160万ドル(12億円)、税額控除は550万ドル(6億円)で、350万ドル(4億円)をチャリティーに寄附しているとし、過去の損失を繰延べしたことは一度もない、しかも自分も税務調査されているが、法律上、申告書を開示できないということは全くない、トランプも早く開示しろ」と逆に言っています。
1995年のトランプの申告書をニューヨークタイムズが不法な手段で入手したとして、トランプは訴訟を起こすと騒いでいるが、アメリカの巷の噂では、元妻のMarla Maplesがニューヨークタイムズに送ったという話である。女性を粗末に扱うと何十年経っても、その恨みに祟られるというわけだ。
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