このほど国税庁の国際課税に対する取り組みを示す国際戦略トータルプランが公表されました。これは国税庁の国際課税の取組みの現状と今後の方向を示したものになっています。
パナマ文書などタックスヘブン事件により国際的な租税回避が非難を浴びる中、日本の国税庁も何らかの対策案を示さなければならないというわけです。具体的には富裕層の税逃れを防止するため、国外財産調書制度の活用、富裕層プロジェクトチームの充実、租税条約による情報交換等を活用するとしています。
しかし、現実には厳しいものがあります。この1年間で富裕層の調査では、調査件数4,377件で申告漏れ所得の合計は516億円で、1件あたり1千万円強でしかないからです。税額にして300万~400万円で、富裕層の定義を国税庁は1億円以上の資産を保有する者としていますが、調査に入ったところは10億円以上の富裕層なはずです。この程度の追徴課税では、それこそ痛くも痒くもないのです。
2014年から国外に5,000万円以上の資産を持っている者は、税務署にその詳細を提出しなければならないとする国外財産調書制度が創設されました。例えば、ハワイの銀行に日本人が預金口座を持っている数は7万人を超えていて、ハワイのコンドミニアムも日本人は数千室保有しているようです。今年の申告で日本人が外国に5,000万円以上の資産を保有していると国外財産調書を提出した者は8,893人しかいませんでした。ケタが1つも2つも違うのです。
実際には、日本の国税局が海外にある日本人所有の資産を調べることができません。したがって、虚偽の申告をしたり、国外財産調書を提出しなかった者は、最高で懲役1年以下に処すると恫喝せざるを得ないようなのです。しかし、したたかな富裕層はそれを見透かして、どんどん海外に資金を送金して工作し、国税庁は、国外財産調書の提出数に対して明らかに不満を表明していて納税者に送付するとしています。
考えてみれば、ある富裕層に対して、「正しい国外財産調書ではありません」とどうやって証明するのでしょうか。特に、アメリカでの資産についての調査では日本政府には限界があります。しかも海外課税逃れの摘発に関しては税務職員の能力の問題もありそうです。
英語の読み書きができ、話せる職員はどれほどいるのでしょうか。短期の語学留学やオーストラリア、カナダへのワーキングホリデー程度の語学研修では、とうてい無理です。
また、日本の外国語大学出身者は語学はできても税法がわからないなど大きな問題を抱えています。シンガポールや香港ならまだしも、アメリカのデラウェア州に資金を送られると解明することはできないでしょう。
国外財産調書が義務づけられましたが、明らかに違反して申告する者が多いようです。もっとも申告していない者はもっと多いようです。申告の嘘を解明するのは税務署の仕事です。
5,000万円以上の国外資産を持っていると申告した日本人はわずか8,893人で、これは日本政府をバカにしたような数字であり、無申告の者を懲役1年にしたらよいと思いますが、この時点で、国外財産調書の不正で罰則が科せられた例は1件もありません。海外に逃した資産の把握には大きな限界があるということでしょう。
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