米ドルの対円レートは、8月半ばの約99円を大底として、上昇を続けており、大統領選でトランプ勝利による円高もたった1日だけで終わりました。一方、春先から延々と1万5000円台から1万6000円台前半で横ばいだった日経平均は、6月下旬に1万5000円を割りこんでから、じり高基調を続けています。
この点に関しては「円安で輸出産業の業績が好転することを期待して、株価が上がっている」という説明がテレビや新聞で今でも繰り返し報道されています。しかし、この説明にはまったく根拠がありません。
まず、日本は先進国ではアメリカに次いで貿易依存度の低い国で、輸出も輸入もGDPの10%台半ばに過ぎないのです。仮に円安で輸出が伸びたとしても、GDPの8割超を占めるその他の部門は、円安による購買力の低下で不利になります。
さらに、輸出品の大部分は中間財・資本財で価格弾力性が低く、為替変動にかかわらず、輸出数量はほとんど変わりません。つまり、円高で輸出総額は伸び、円安で輸出総額は減少する体質になっています。現に、2016年第3四半期(7~9月)の輸出は、前四半期比で年率2.0%伸びましたが、これは前年同期に比べてかなり円高が進んだのに、輸出数量がほとんど減少しなかったための増加でしょう。
円安と株高が同時進行しているのは「円安で輸出産業の業績好転が見こめるから」というのは、因果関係が逆になっています。日本株取引の6割以上は外国人投資家が行っています。そして、彼らは日本株が上昇したときの収益が円安で目減りしないようにと、日本株は借りた円で買ってヘッジしています。
そして、借りた円で株を買えば、そのときだけ市場に流通している円の総量が増えるので、円は安くなります。だから、外国人買いで日本株が上がるときには、円が安くなります。逆に、外国人投資家が日本株を売った場合には借りていた円を返すので、その分だけ流通している円の総量が減少し、円高になります。
2016年7月頃までの外国人投資家は、基本的に日本株は売りのスタンスで臨んでいました。しかし、彼らがかなり大量に売っても、日銀と公的年金資金(GPIF)が必死に買い支えて、日経平均を1万6000円近辺で横ばいに保っているのを見て、8月中旬頃からスタンスを変えたようです。
外国人投資家は2013年に約15兆円という大量の日本株買い越しましたが、平均買いコストは1万3000円前後でした。その日本株を1万6000円台で売れば、25%程度の利益が出ます。しかし、もしちょっと買い増しをして1万7000円台まで押し上げてやれば、持ちつづけていた日本株からは30%超の利益が出るのです。
アメリカの株式市場で流通しているETFの大統領選当日から3営業日の資金流出入を示すグラフを見ると、日本株ETFは、国別株ETFの中ではアメリカ株ETFに次いで第2位であり、約2%の資金流入となっています。
トランプ勝利という大番狂わせが起きた直後の3営業日で2%の資金流入というのは、かなり大きな株価上昇要因です。しかも、実体経済が悪化すればするほど、株価は上がるといういびつな構造になっているアメリカ株とほぼ同率の伸びを示しています。
耐久消費財株ETFで資金の大流出が起きていることを見ても分かるとおり、アメリカの実体経済はかなり悪いはずです。債券利回りの急騰=債券価格の暴落をきっかけに、金融危機が起きるのは間違いないでしょう。しかし、その金融危機でアメリカ株や日本株が大暴落すると考えていると、大やけどをする危険があるかもしれません。
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