この15年ほど、サンフランシスコ・ベイエイリアの南に位置するシリコンバレーでは、グーグル、フェイスブック、アップルなど数多くの企業が破壊的イノベーションを実現させ、世界を驚かせています。この根底にあるのが「アルゴリズム」です。
アルゴリズムとは、問題を解くときの定型化された手順のことで、コンピュータの場合は問題を計算する一連の手続きのことをいいます。産業革命とは、人間ではできないことの機械化のことですが、現在起きている産業革命はソフトウェアによる自動化です。
以前は時間がかかった情報検索や会計処理などは完全自動化されました。そして人工知能(AI)が急速に発達し、ディープラーニング(深層学習)が生まれました。これにより大量のデータを読み込んで進化し、人間の学習能力を超えてきています。
さらにクラウド・コンピューティングが出現し、その次のテクノロジーがIoTです。具体的には2015年、テスラモーターズが行ったオートパイロット(自動車の自動運転)のアップデートがあります。「今晩中にオートパイロットのソフトウェアをダウンロードできるから、明日から使える」というメールが届きました。それが現実になったようなのです。
修理工場に行かなくても、ソフトウェアをダウンロードするだけで機能を革新しているのです。人が要らなくなっています。自動化が進むとこうなるのですが、今まではこのような失業者を新しく勃興した産業が吸収してきました。しかし、これは過去の例で、将来同じパターンが繰り返されるという証拠はありません。
一方、日本ではアメリカほど技術的失業が顕著であるとあまり感じられません。理由は3つありますが、。1つ目は、情報通信のテクノロジーの導入が遅いことです。2つ目は、技術的失業よりもデフレ不況による失業率の増加のほうが注目されていたことです。そして3つ目に、技術的失業よりも少子高齢化の問題が経済成長率を低下させているという問題です。
3つ目の少子高齢化は今後特に失業に関わっていくでしょう。日本は現役世代が年々減少していますが、企業はその人手不足を補うために人工知能などのテクノロジーを積極的に導入しようとするでしょう。それに備え考えなければならないのは、それらの技術が人間と同じか、もしくはそれ以上の質のアウトプットを出せるようになった時に、労働力としての人間が必要ではなくなる可能性があるということです。
人間の仕事が人工知能に完全には代替されず失業者は減るというのは、経済学的に言うと、これは「代替か補完か」という問題になるでしょう。代替とは仕事が置き換えられること、補完とは人工知能などの機械と人間が互いに補い合う関係のことです。
この問題について考える際に気をつけなければならないのが、「代替は不幸、補完は幸せ」であるとは必ずしも限らないということです。なぜなら、人工知能など先端技術を使いこなせない人はいつの時代にも一定数おり、彼らはどうしても間違いなく失業してしまうからです。
例えば、アマゾンを支えるインフラと同社の社員の関係は、「補完」の良い例といえます。技術に長けた少数の社員によって、アマゾンを支えるインフラが運用され、サービスは世界中の消費者に利用されています。しかし、その一方で、多くの書店が閉店に追い込まれていきました。結果的に技術的失業を生み出しているのです。
つまり、現代の高度なテクノロジーと人間という新たなコラボレーションは、過去の産業革命でもたらされたものとは違い、それほど雇用の創出を生んでいません。その理由は、特にデジタル空間で完結するテクノロジーは、制約はあるもののあまり費用をかけず「コピー」できてしまうからです。
代替か補完かのいずれの道を辿ったとしても、経済自体は成長していくはずです。しかし、その副作用として技術的失業が起こるのは避けられないことなのです。現代人は自分の一生の時間の多くを「働く」ことに費やしていますが、この時間が大幅に削減されたときには、働くことの意味も変わっていくのでしょう。きっとそのときに大事になっていくのは、やはり、「自分は何をやりたいか?」になっていくと思うのです。
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