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ここ数年、日本中で困った若手社員が急増しているようです。「叱られるとすぐ休む」「いきなり会社に診断書を送りつけて休職」「休職中に海外旅行」などがそうですが、これらに共通しているのは、どの社員にも「うつ症状」があるということです。
ただのワガママと捉えられがちですが、SOTカウンセリング研究所所長の緒方俊雄氏によると、「新型うつ病」だというのです。10年以上にわたって「新型うつ病」と格闘してきた緒方氏の見解を紹介していきたいと思います。
新型うつ病を説明するには、まず従来型のうつ病の説明をしておきましょう。従来型のうつ病は、中高年の几帳面で真面目で忠実な人に多く見られるものです。うつ病を発症すると、一日中憂鬱な気分が抜けず、身体的な症状も現れるようになります。しかし本人は他人に迷惑がかかるのを嫌い、なかなか医療機関で受診しようとしません。頑張りすぎてしまう人がかかりやすいのです。
一方、新型うつ病は若い世代に多く、学校では優等生だった人に多く見られます。最大の特徴は、仕事以外では症状が軽減することです。休職した途端に海外旅行へ行けるほど回復してしまうこともあります。しかし、出勤時間や休職期間の終わりが近づいてくると、急に症状がぶり返すのです。
さらに、従来のうつ病患者とは違い、医療機関の受診に積極的です。新型うつ病はとても勘違いされやすく、ついつい本人の気質のせいだと思い、上司が叱責してしまいがちですが、それでは改善することはありません。新型うつ病を発症させてしまう家庭環境や日本社会に原因があるのではないでしょうか。
従来のうつ病患者は、親から受けた愛情が乏しく、厳しい家庭環境で育った人が多いというデータがあります。したがって愛情を求めるようになり、他人（上司）や会社に依存し、頑張りすぎて発症するのです。反対に、新型うつ病患者は、母親が過保護で過干渉であることが多いといいます。
子どもに愛情を注ぐのはいいですが、過保護になると子どもの成長を止めてしまうのです。子どもは、親の保護をより享受するために勉強を頑張ると親は子どもをほめ、より過保護で過干渉になります。こうなると反抗期などなく、共依存の関係となります。俗に言う大人の子ども化、アダルトチルドレンです。最近では、大人になりきれていない大人が増えていますが、モンスターペアレンツやクレーマーがいい例です。そんな大人がまともな子どもを育てられるわけがありません。家庭での教育が崩壊しているというわけです。
さらに、ゆとり教育も一因でしょう。弊害はいくつもありますが、その中でも教師が生徒を叱れなくなったというのが大きいと思うのです。ゆとり世代をよく観察してみると、叱られて育ってこなかったので、他人から叱られたとき、どうしていいか分からないようなのです。もう一つの要因は、人間関係の希薄さです。これについては語るまでもないですが、コミュニケーション能力不足の若者が増えたということです。
1980年代の日本企業は、人材育成に時間と労力を注いできました。終身雇用制がしっかりしていた頃のことです。しかし1990年初頭にバブルが崩壊し、企業の体力はなくなり、即戦力が求められるようになりました。人材育成にかける余裕がなくなったのです。
20代30代の世代は、40代以上の世代と比べると確かに甘やかされて育ってきました。つまりストレス耐性がなく、さらにコミュニケーション能力も希薄です。ゆとり世代の新入社員に即戦力を求めると、これでは働けるわけがありません。新型うつ病を生みだしたのは、家庭と日本社会なのです。
新型うつ病の病状の多くは「心気症」であるといいます。体の症状は強く出ていますが、はっきりとした症状形成がないのです。働く環境に適応できなくて、ストレス耐性がない若手社員たちは、無意識のうちに人間の防衛本能を示す症状を表します。これを「疾病利得」といい、「病気であるうちは会社に行かなくてもいい」という利益を得ることになるのです。
しかし若手社員本人は、無意識なので本気で病気と思っているので、しっかり診断書をもらって会社を休むようになります。このとき必要な対処法は、まず「新型うつ病」という病理を理解することです。そして若手社員の話をしっかり聞いて、信頼関係を作ることです。彼らは働く環境になじめていないので、それを取り除かない限り、この病気が治ることはありません。
また、家族関係も見直す必要があります。母親などから過保護や過干渉を受けていることが多く、これでは自立した人格が形成されないまま、子どものまま年をただ取るだけになります。何より、いち早く医療機関に連れていくことです。れっきとした病気であり、根性論では到底治らないでしょう。投薬といった対症療法では効き目が薄いので、必ず心理カウンセリングを受けさせることです。そして条件によりますが上司は、主治医の指示を仰ぐことも必要でしょう。
生まれたての赤ちゃんは、中身のない空っぽの生き物です。そこから、様々な経験を通して学び、人格が形成されていきます。この様々な経験とは、環境が大きく左右します。適切な愛情を注ぎ、親が子どもをつかず離れずの立ち位置から見守っていれば、比較的まともな大人に育つはずなのです。
また、ゆとり教育なんて指導方針も決定していなければ、ストレス耐性のある子どもが育ったかもしれません。子どもに罪はないですが、今の子どもが育ったのは、この日本の環境を作り出した大人たちの責任でしょう。「最近の若者は…」と嘆く大人たちは、甘んじて今の若手社員と向き合うべきです。
そして若手社員たちは、すぐ来る欧米の没落後、世界の中心となるべき日本の将来を背負っています。もう甘える年齢ではなくなったのですから、こちらも甘んじて大人たちの「しごき」を受けるべきです。ゆとり世代の方は、このような記事を読みながら、大人たちの「しごき」を想像してわなわなと震えているのではないでしょうか。
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