今回の米露首脳会談では、プーチン大統領もトランプ大統領もイスラエルの存続を認め、イスラエルの安全保障については特別な関心を払うことが合意されたと言われています。これに対し、イスラエルのネタニエフ首相はロシアとアメリカのこのような方針に感謝の意を示したと報じられています。
さて、このような文脈から1974年のイスラエルとシリアによる兵力引き離し協定時点の状態にゴラン高原を戻すという首脳会談で合意されたと思われる内容を見ると、その重要な意味が分かってきます。つまり、イスラエルの安全を確保するため、ヒズボラなどイランが支援する武装組織をゴラン高原から排除することに、ロシアとアメリカは合意したということです。
これまでの展開から、なぜロシアがこれに同意したのか不思議に思いますが、実際にロシアはイランとともにアサド政権の崩壊を狙うアメリカやサウジアラビアに反対し、アサド政権の存続を支援してきました。シリア国内からはIS(イスラム国)やイスラム原理主義の反政府勢力の多くは排除され、アサド政権の存続が決まっています。
これに決定的な役割を果たしたのは、イランが支援する武装勢力の地上軍とロシア軍の介入でした。このような状況を見ると、シリアではイランとロシアはアサド政権の側に立つ同盟関係にあったはずなのに、イランに対してなぜロシアはイランが支援する武装勢力のゴラン高原からの排除に同意したのでしょうか?
その答えは、シリアと中東の安定の確保にあります。もしイランが支援する武装組織がイスラエルと国境を接するゴラン高原に侵入するようなことがあれば、ゴラン高原は緊張することになり、この排除を狙うイスラエルとの間に開戦が始まる可能性が高いというわけです。
つまり、イスラエルとイランの武装組織との戦争です。状況次第ではイスラエルとイランとの全面戦争に発展する可能性もあり、すでにロシアは1ヵ月ほど前にイランに対して、シリア内戦の終結後にはシリア国内のイランの武装組織の撤収を働きかけたことがありました。
しかし、イランはこれを拒否し、引き続き同盟国であるシリアを保護する姿勢を明確にしています。こうした経緯から見て、ロシアがゴラン高原でのイラン武装組織の排除に同意したとしても不思議ではありません。イスラエルの存続の確保という点では、実はロシアの利害はアメリカとは一致していたことが分かります。
では、イランが今回の米露首脳会談の合意に同意しなかった場合はどうなるのでしょうか?
この答えについても、トランプ政権はイスラエルの安全を脅かす可能性のあるイランの体制転換の工作を進めていることで分るはずです。おそらくイラン国内で実施される不正選挙の抗議運動などを仕掛けることで、イラン国内の混乱に乗じて体制転換を誘導するという「アラブの春」のようないつもの手口を再び使うというわけです。
しかし、もしイランがゴラン高原から手を引かず、またシリアでも支援する武装組織を展開させるなら、ロシアもアメリカが仕掛けるイランの体制転換の後押しをする可能性があるということです。今回は、積極的な後押しではなくても、アメリカの工作の邪魔はしないという態度を取るかもしれません。
結果として、7月16日に開催された米露首脳会談は、イランの体制転換に向けたきっかけの役割を果たした可能性があり、しばらくするとイラン国内の混乱を伝えるニュースを私たちも聞くことになるかもしれません。
それは、日本にとっても影響があることは間違いなく、当分の間はイラン、そして関係している北朝鮮から再び目が離せなくなるということです。
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